はっぴいだんす

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キルヒアイス推しがノイエ銀英伝の続編を見るべき25の理由

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「推しが死んだ。友をかばったらしい」

 1982年からに刊行されたSF長編小説「銀河英雄伝説(銀英伝)」。僕が、始めて銀英伝に触れたのは1990年代の終わりにWOWOWで見た無料放送でした。そこから、あっというまに原作を読み、当時はビデオだったのでレンタルしたものをこっそりダビングし、DVDが発売となるや、23万円(全26巻!)出してBOX買いし…。とにかく沼にはまりました。銀英伝は自分の人生の中で最も愛した創作物でしたね。
 その銀英伝を再度映像化しようというプロジェクト「銀河英雄伝説 Die Neue These(以下:ノイエ銀英伝)。無事(?)、劇場版も完結し、新シリーズの制作も発表されました。


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 銀英伝の世界はまだ始まったばかりです。なにしろ、原作10巻のうち、ノイエ銀英伝で映像化されたのは2巻までです。物語は、まだまだこれからです。

 しかし、我々はノイエ銀英伝星乱編の最後で惜しむべき人物を失いました。ラインハルト・フォン・ローエングラムの半身、ジークフリード・キルヒアイスです。その誠実さと有能さ、忠誠心で愛された彼を失い、「もう続きを見られないよ…」と思っている「キルヒアイス推し」の皆さんも世界に数多くいらっしゃるかと思います。

 ですが、言いたい!この先も、キルヒアイスはこれからも出てきます。そう、物語の登場人物の心の中に。数多くのキャラクター(主にラインハルト)がキルヒアイス不在を惜しみます。今風にいうのなら、キルヒアイスは煉獄さんなのです。

 今回は、続編で描かれるであろう原作3~5巻の中で、キルヒアイスについて言及されている部分を引用しました。その数、実に25。いかに、今後も銀英伝においてキルヒアイスは重要な存在であるかを実感していただき、続編もぜひご覧いただければと思います。

 なお、ネタバレについて
企画の性質上、ネタバレはゼロではないものの、物語の核心にかかわる部分は外してあります。ご安心ください。

 それでは、いってみましょう。

キャラクター別キルヒアイス惜しむリスト

ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ編

1.ラインハルトの体内には翼のはえた悍馬が棲みついており、それが彼をかりたてている。そしてその手綱は、ラインハルト自身ではなく、亡きジークフリード・キルヒアイスの手にあったのではないか。その考えはヒルダをとらえて離しそうになかった。(第3巻第四章)

 亡きジークフリード・キルヒアイスに代わって、ラインハルトを支える存在になるのが、ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ(以下:ヒルダ)です。ノイエ銀英伝から入った人向けに説明すると、リップシュタット戦役開始直前に、ラインハルトに面会をしていた女性です(ノイエ銀英伝第16話)。

 帝国宰相首席秘書官となった彼女は、ラインハルトに「強い」君主として君臨することを求めるオーベルシュタイン宇宙艦隊総参謀長と対峙します。

2.それにしても、若くして逝った赤毛の若者は、今後どれほど人々におなじつぶやきを発せさせることになるのだろうか。

キルヒアイスが生きていたら!」

と……。(第3巻第九章)

 「キルヒアイスが生きていたら!」
 今後も幾度となく繰り返される重要なセリフです。キルヒアイス推しの皆さんはその度に悶絶できます。ものすごく先(ノイエ銀英伝が5,6期まで行けば)まで行くと意外な人も言うのでお楽しみに。

3.去年まで、これは亡きジークフリード・キルヒアイスの、余人をもってはかえがたい存在価値の一部であったことを、彼女はわきまえていた。(第4巻第一章)

  銀英伝は元が小説ですので、地の文でキルヒアイスの名前が登場することもあります。このシーンはその一つです。「ここで、この人キルヒアイスのこと考えていないか!?」と妄想するのも楽しいんじゃないでしょうか。ヒルダはずっと「キルヒアイス提督が生きていれば私がでしゃばる必要はなかったのに」と思っているので、ラインハルトと話しているときのヒルダは、キルヒアイスのことを常に念頭に話しているものと思っていいぐらいです。

ウォルフガング・ミッターマイヤー編

4.「ジークフリード・キルヒアイスが生きていれば、きっとローエングラム公をお諫めしただろうな」
吐息まじりに、ミッターマイヤーは言った。(第3巻第四章)

 帝国軍の双璧と称されるようになる”疾風ウォルフ”ことミッターマイヤーもキルヒアイスのことを惜しみます。彼は基本的に良識家なんで、ラインハルトに優しいんですよね。ノイエ銀英伝では今の段階では、ミッターマイヤーというキャラクターの半分も書かれていないので、続編をお楽しみに。

オスカー・フォン・ロイエンタール

 それに対して、キャラクターとしてもう少し斜に構えているのは、もう一人の双璧、"金銀妖瞳"のロイエンタールでしょう。ラインハルトの心境を不安視するミッターマイヤーへの返事がこれです。

5.「失うべからざるものを失ったら、人は変わらざるをえんのだろうよ」(第3巻第四章)

英伝の魅力は様々ありますが、やはりキャラクター同士の掛け合いというのは欠かせない部分ですね。双璧の二人のやりとりは、続編ではかなり増えるはずです。

アンネローゼ編

6.「…古いことをお話ししましょう。(中略)なにもかもなくしたように見ましたけど、あたらしくえたものもありました。ラインハルトが生まれてはじめてもった友人は、燃えるような赤毛と感じのいい笑顔をもった背の高い少年でした。その少年にわたしは言ったのですージーク、弟と仲よくしてやってね、と……」(第4巻第一章)

アンネローゼ推しの方々には申し訳ありませんが、ノイエ銀英伝の続編においてアンネローゼの出番は、ほとんどありません。上の部分は、唯一と言っていい登場シーンです。

ヤン・ウェンリー

7. 彼の訃報に接したとき、ヤンは永年にわたる友人を失ったような心の痛みをおぼえた。彼が生きていれば、帝国新体制と同盟の、貴重な架け橋となってくれたかもしれない、ともヤンは思う。(第三巻第八章)

敵将であるヤンからも、その存在を惜しまれる男、それがジークフリード・キルヒアイスなのです。ただ、この文章は、わりと長く地の文が続く場面で登場するします。そのため、ノイエ銀英伝で登場するかはちょっとわからないですね。ただ、このシーンを読むと、キルヒアイスが生きていれば、帝国と同盟の全面対決を回避できたのではないかとか、そういう妄想をしたくなるんですよ。ぜひ、うまく演出で入れてほしいものです。

ラインハルト・フォン・ローエングラム

さあ、いよいよ真打。ラインハルト編です。今回改めて原作を読んでみて思ったのは「いちいちキルヒアイスがでてくる」。いやもう本当に、ラインハルトはキルヒアイスのことばっかり悔いてる。ラインハルトの心情に何か変化が起きるたびに、頭の中にはキルヒアイスがいるんですよ。

いきなりキルヒアイス

8.以前は、そう思おうとする努力など必要なかった。ときおりふりむいて、ジークフリード・キルヒアイスが半歩おくれてついてくるのを確認するだけで、すべてがすんだのである。(第3巻第二章)

9.非情な野心家という仮面の下にあるラインハルトのこのような優しさーあるいは甘さを口にしなくとも理解してくれたのは、いまは亡きジークフリード・キルヒアイスくらいのものだった。(第3巻第二章)

3巻初登場、つまり続編の初登場シーンからこれです。本当は、ぜひこの辺は原作も読んでもらいたいんですよね。別にラインハルトが口に出して「キルヒアイス」という言うシーンなんてほとんどないんですよ。でも、心は常にキルヒアイスとともにある、というかキルヒアイスから離れることができないんです。

代替案も結局キルヒアイス

10.彼は物質には関心も欲望も薄かったが、人材には執着した。ことに、去年、赤毛の友ジークフリード・キルヒアイスを失ってからは、不可能と知りつつも、その損失を埋めるべく努力をおしまなかったのだ。(第4巻第一章)

キルヒアイスを失ったラインハルトはその穴を埋めるべく、人材に執着します。ラインハルトの上級幹部のうち、まだノイエ銀英伝に登場していないのはミュラー・ケスラー・シュタインメッツ・アイゼナッハ・レンネンカンプ・アイゼナッハあたり…っていっぱいいますね

11.ただ、どれほどゆたかな才能のかずかずを結集しても、一年前に失った友の欠落を埋めあわせることができないことも、ラインハルトにはわかっているのだった。(第4巻第六章)

12.彼の覇気は、同年の主君ラインハルトにとって不快なものではないはずだったが、このようなタイプの人物を見ると、けっして好んでめだとうとはしなかった故人のことを連想してしまうラインハルトだった。(第5第一章)

ただまぁ、結局キルヒアイスと比べてしまって、喪失感を感じるラインハルトなのです。

反省するときもキルヒアイス

13.流血の道だな、と、ラインハルトは胸中でつぶやいた。赤毛ジークフリード・キルヒアイスが生きていたら、(中略)ようなやりかたを許容することは絶対になかったであろう。(第4巻第二章)

  宇宙を手に入れるということはきれいごとではすみませんから、ラインハルトも権道を使います。ただ、使ったら使ったで、キルヒアイスのことを想いださずにはいられないラインハルトなのです。

キルヒアイスのペンダント

 14.ラインハルトは、首からかけたペンダントを掌の上にのせた。それは鎖も本体も銀でつくられていた。指でその一点をおすと蓋が開き、やや癖のある、紅玉を溶かした液で染めたような赤い頭髪の小さなひとふさがあらわれた。金髪の若者は、身じろぎもせず、長いあいだ、それを見つめていた。(第3巻第四章)

 今後のノイエ銀英伝を見る上で重要な小道具がラインハルトのペンダントです。ノイエ銀英伝24話のラストシーンで、キルヒアイスの墓の前に立つラインハルトがもっていたペンダントです。ラインハルトが物思いにふけるとき、必ずこのペンダントが出てきます。これは、キルヒアイスの存在を象徴するものなのです。 三越英伝の第2期があったら、商品展開されそう。

15.彼の白い指が、胸のペンダントをまさぐっている。

「これが権力をにぎるということか。おれの周囲には、おれを理解しようとしない奴ばかり残る。それとも、やはり、おれ自身の罪か……」(第3巻第七章)

16.だが、胸のペンダントが鏡に映ったとき、彼は亡きジークフリード・キルヒアイスのことを想いだしたのである。(第3巻第九章)

17.首にかけた銀のペンダントを掌にのせると、蓋を開き、なかにおさまった赤い頭髪の小さなひとふさに視線をそそいだ。

「行こうか、キルヒアイス、おれとお前の宇宙を手に入れるために」(第4巻第九章)

風雲のキルヒアイス

今回のノイエ銀英伝の続編は全24話と発表されています。ここで、描かれる内容はおそらく原作では3,4巻にあたります。ま、実際のところ、その後5巻の内容が劇場版としてつくられるものと思われます。原作前半のクライマックスである5巻は、劇場版にふさわしい展開が繰り広げられます。物語のクライマックスということは、ラインハルトの心境も様々変化します。それはイコール、キルヒアイスのことを思い出すということなんですね。怒涛のように登場しますよ、キルヒアイスも。

ところで、なんで「風雲のキルヒアイス」かというと5巻の副題が「風雲編」だからです…。

18.彼らの轍を踏むようなことがあってはならなかった。あの日、あのときから彼ひとりの生命ではなくなっているものを……。(第5巻第一章)

 ここの「彼ら」とは、連戦連勝しながら最後の一戦で敗北し、歴史の舞台から退場した野心家のことです。

19.死者に歎くほど自分は人材に不自由してはいないはずだ、と、若い美貌の征服者は自己に言い聞かせるのだが、(中略)キルヒアイスにたいする思いが失われたとき、自分の過去のうちもっとも清冽で温かい日々が失われてしまうことを、ラインハルトは知っており、そのおそれはすべての理性と打算にまさっていたのである。(第5巻第四章)

 ちょっと長い引用ですが、実はこの前にわりと核心的なセリフを言っています。そこはカット。

20.「お前が生きていてくれたら、私はこんな苦労をせずにすむのだ。お前に遠征軍の総指揮をとってもらって、私は帝都で内政に専念していられるのに……」(第5巻第五章)

 ここはねぇ、ラインハルトの心性を考えれば「ラインハルトが遠征をして、キルヒアイスが帝都で内政してる」と思うんですけどね。

 21.「もう寝なさい。子供には夢を見る時間が必要だ」

それはかつてラインハルトが姉アンネローゼに言われた言葉だった。泊りにきたジークフリード・キルヒアイスと、せまいベッドのなかでとりとめもなく語りあっていると、姉がドアのところから声をかけるのだ。(第5巻第六章)

 ここは、回想シーンですね。最初のセリフがラインハルトがあるキャラクター(ノイエ銀英伝未登場)にいっています。そう、のちにラインハルトと釣りをするあの子です。

さて、ここからは本当にクライマックスに向かっていきます。何を言ってもネタバレになりそうなので、キルヒアイス登場シーンだけ列挙します。

22.もしジークフリード・キルヒアイスが彼の傍にいてそう進言すれば、すなおにしたがったにちがいない。(第5巻第八章)

23. ペンダントを白い手ににぎりしめて、底知れぬ孤独のなかで彼は無言の問いかけをした。赤毛の友は答えてくれなかった。彼を答えられなくしたのはラインハルト自身だった。(第5巻第八章)

24.「私には友人がいた。その友人とふたりで、宇宙を手に入れることを誓約しあったとき、同時にこうも誓ったものだ」(第5巻第九章)

 25.だが、ラインハルトがもっとも欲するふたりの人物がいない。彼とおなじ黄金色の頭と、燃え上がる炎にも似た赤い頭がない。(第5巻第十章)

以上、ノイエ銀英伝キルヒアイスが登場するかもしれないリストでした。…とここまで書いて気が付いたのですが、続編では双璧の過去エピソードが入るんでしたね。いまさらながらですが、そこでキルヒアイス出てきますね…。

最後に

実のところ、続編を楽しみにするのもいいんですが、本当はぜひ原作を読んでほしい。

  銀英伝には「後世の歴史家」という視点があります。後世からふり返って銀英伝の登場人物たちがしたことを、時には複数の視点から評価をしています。これが、銀英伝に独特の深みと想像の余地をつくってくれるのです。ぜひ、皆さんにその部分も楽しんでいただきたいなと一ファンとしては思っています。この文章がその一助となれば幸いです。